不動産鑑定評価のご依頼を初めてご検討されているお客様向けに、
不動産鑑定評価の必要性や特徴等についてご案内いたします。
不動産鑑定評価とは?
不動産鑑定評価とは、土地や建物等の不動産の経済価値を判定し、価額(価格・賃料)として表示することで、法令上、国家資格者である不動産鑑定士のみが行うことができます。
不動産鑑定評価は、不動産鑑定評価基準や各種ガイドライン等に基づいて公正かつ厳格に行われており、成果報告書である不動産鑑定評価書には、不動産鑑定士が責任をもって署名(自署)・押印をします。
不動産鑑定評価は、法人にあっては内部統制を徹底する役割、投資家等の利害関係人に対する説明責任を果たす役割等を有するとともに、個人においては相続人間で公平かつ円滑に遺産分割等を進める際、地代・家賃の増減請求の際など、客観性・中立性が求められる局面において、不動産鑑定評価が積極的に活用されています。
また、ニュース等で定期的に耳にする地価公示・地価調査・相続税路線価等の公的評価においても、不動産鑑定評価の成果が活用されています。
こうした観点から「不動産鑑定評価は、特定の当事者の立場に偏ることなく、専門的かつ中立的な第三者の立場で、対象不動産の客観的な経済価値を判定し、不動産鑑定評価書等の成果報告書に価額として表示すること」と説明することができます。
なお、成果報告書については、各種ガイドライン等に基づく一定の条件の下で、不動産鑑定士による鑑定評価業務であっても、意見書や査定書等の形式で価格等の報告を行うことも可能です。
不動産鑑定評価は、お客様のニーズや対象不動産の状況に応じて、柔軟に対応できる側面もあります。
不動産鑑定評価の役割
不動産の価格等は、広い意味では市場における需要と供給のバランスで決定されるものですが、個々の不動産は規模・形状等の個別性が強く、さらに地域ごとに市場特性や価格形成要因の作用が異なるという複雑な面を有しており、不動産の価値を「明確な価額」として把握することは容易ではありません。
その一方で、不動産は、企業活動や家庭生活において不可欠な役割を有するとともに、不動産の価値は一般的に非常に高額です。そのため、不動産の価格等の根拠や位置づけが曖昧であると、企業活動や家庭生活を停滞させるばかりか、不動産取引によって当事者や関係人に不測の損害を生じさせる危険性もあります。
したがって、法令等によって厳格に運用され、明確な根拠付けと透明性の確保が重視される不動産鑑定評価制度に対しては、重要な社会的使命が課せられているものといえます。
我が国においては、戦後の高度経済成長期に土地取引が激増する過程において、取引の混乱を防止し、客観性・透明性のある地価形成を促進する観点から昭和39年に不動産鑑定評価の制度が誕生しました。以来、バブル経済とその崩壊、不動産証券化や時価会計等の新たな制度の導入に関連し、不動産鑑定評価は、時代の変遷とともに発展を続けています。
不動産鑑定評価の活用ケース
不動産鑑定評価が活用される主なケースについてご紹介します。
売買(又は交換)
- 資産の処分に際して、金融機関や監督官庁へ不動産鑑定評価書の提出が必要となる場合があります。
- セールアンドリースバック(リースバック)に関係して不動産鑑定評価を行う場合もあります。
- 買主の立場であるお客様からのご依頼の場合には、対象不動産への立ち入り・内覧ができずに、外観からの目視等により可能な範囲での調査に限定される場合があります。
資産評価
- 相続関係(遺産分割・相続税の申告等)や財務諸表の作成(減損会計等における「原則的時価算定」)等に際して、資産評価を行うことがあります。
- 資産評価においては、実際に買い手が現れていない場合が大半ですので、関係人が納得できる根拠を有した価格を把握する必要性が高く、不動産鑑定評価は最も信頼性の高い根拠となります。
- 遺産分割等の際には、広大地、中古住宅、アパートや貸ビル等の収益物件など、公示価格や固定資産税評価額から単純に時価を把握しづらい場合に不動産鑑定評価が重要な役割を発揮します。
担保の設定
- 一般的な不動産担保ローンにおける鑑定評価のほか、自宅を担保に老後資金の融資を受ける「リバースモーゲージ」に関係して鑑定評価のご依頼をいただくことがあります。
- 関係する金融機関の担保評価に関する一定の社内ルールに留意しながら、不動産の鑑定評価を行うことが通例です。
賃料の新規設定(新規賃料)
- 会社役員が会社に事業用地を新たに賃貸する場合など、親族・同族会社間での適正な賃貸借関係を成立させるため、顧問税理士等の第三者の助言に基づいて鑑定評価が依頼されるケースが多いように見受けられます。
- 予定されている賃貸借契約の条件を参考としつつも、賃料水準については市場賃料を踏まえて試算・決定します。
賃料の改定(継続賃料・賃料の増減請求)
- 借地借家法で認められている「賃料増減請求」を根拠として、現に係争中又は係争予定の賃貸借当事者の一方より、賃料改定の目的にて鑑定評価が依頼されることがあります。
- 借地借家法においては、契約自由の原則に基づいて、両当事者が合意した賃料が尊重されます。したがって、賃料増減請求に係る争訟においては、直近合意時点以降に、公租公課、土地及び建物価格、近隣地域等の賃料の変動などの事情変更があり、直近合意時点の賃料が不相当である場合のみ賃料の増減請求が可能となります。また、事情変更以外にも、賃貸借契約締結の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容の要因を総合的に考慮する必要もあります。こうした事項を踏まえ、契約当事者間の公平性の確保が重視されるため、継続賃料は現行賃料と新規賃料(正常賃料)の間で決定されます。
- とくに地代の鑑定評価においては、何十年も前(例えば昭和初期や大正時代)に遡って賃貸借契約締結の経緯、賃料改定の経緯等を確認する必要が生じる場合もあることから、鑑定評価の作業は数か月もの長期に及ぶこともあります。
不動産鑑定評価のポイント
不動産鑑定評価を行う上で特に重要と考えられるポイントについてご紹介します。
価格の種類
不動産鑑定評価によって求める価格は、原則として「正常価格」です。正常価格とは、市場性を有する不動産について、「現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格」を意味します。
これに対し、借地権者による底地の買い取り、隣接不動産の買い取り、経済合理性に反する不動産の分割などの例では、特定の当事者間でのみ合理性が認められる「限定価格」を求めることがあります。
このほかにも、民事再生法に基づく早期売却を前提とした鑑定評価、会社更生法又は民事再生法に基づく事業の継続を前提した鑑定評価の例では、法令等による社会的要請を背景とした「特定価格」を求めます。
限定価格及び特定価格は、正常価格の意味する市場価値とは乖離していることに注意が必要となります。
鑑定評価の条件設定
不動産鑑定評価は、原則として「現実の利用状況を所与」として実施しますが、多様な不動産取引等のニーズに対応するため、実現性・合法性・関係当事者や第三者への影響等を踏まえ、条件を設定して鑑定評価を行う(ことができる)場合があります。
例えば、接面している道路の拡幅工事が完了する前提で鑑定評価を行うとか、古家付きの土地について、所有者自ら解体して更地で売却する予定である場合に、現時点で更地として鑑定評価を行う場合などです。
詳細はケースバイケースですので、条件設定の可否についてはご相談に応じて適切に回答いたします。
対象不動産が更地である場合
更地であっても、最有効使用の賃貸建物の建築を想定して、土地の収益性を踏まえた価格を試算することがあります。
広大な更地で、宅地分譲やマンション用地等が最有効使用と判断される場合には、こうした開発行為を想定した手法(開発法)も適用して鑑定評価を行います。
開発法等においてマンション等の中高層建築物の建築を想定する際には、別途、建築士による想定建物検証(ボリュームチェック)が必要となることがあります。
市街化調整区域においては、建物の建築が法的に可能であるのかどうかによって、対象不動産を宅地として扱えるのかどうかや経済価値の水準について、判断が大きく分かれることがあります。
対象不動産が収益物件(賃貸用・事業用)である場合
アパートや貸ビル等の賃貸用収益物件の鑑定評価の場合、標準的単年度の純収益(総収益から総費用を控除)から収益価格を求める手法のほか(直接還元法)、テナントの入れ替えや毎期の純収益の適切な予測が可能で、その変動を収益価格に反映させる必要性が高い場合には、毎期の純収益を現在価値に割り引いた価値の総和から試算するDCF(Discount Cash Flow)法を適用します。
ホテル等の事業用不動産においても基本的な考え方は変わりませんが、直接還元法において採用する純収益は、事業活動による収益(一般的には営業利益)を分析して査定します。
総収益に関する資料としては、テナントごとの賃貸借条件や複数期にわたる賃料・営業利益等の状況に関する資料(レントロール・決算資料)のほか、建物の維持管理に係る支出実績資料(維持管理費、修繕費、固定資産税・都市計画税・損害保険料等)が必須となります。